2012年5月3日木曜日

第1節 販売価格の決定


第1節 販売価格の決定

第3部 経済構造の変化にチャレンジする中小企業 


第1節 販売価格の決定

 中小製造業にとって、自社製品をいくらで販売するかは、非常に重要な問題である。各企業は、既存の技術レベルを上げたり、あるいは新しい技術を開発したりすることで、付加価値を高めてより多くの利益を獲得しようと日々努力を重ねている。しかし、こうした努力にもかかわらず、技術力・技能が販売価格に適正に反映されない場合がある。また、販売先企業との力関係から、自社の技術力・技能が過小評価されてしまい、販売価格に反映されていない例も散見される1
 本節では、中小企業が主要販売先2との間でどのように価格を決定するかに焦点を当て、〔1〕技術力・技能が販売価格に反映されない要因、〔2〕中小企業が価格交渉力・価格決定権を持つための条件の2点について明らかにしたい。


1 販売価格は誰が決定するのか

 主要販売先との価格決定は、自社と主要販売先のどちらが価格交渉力を持っているかという観点から、〔1〕主要販売先に決定権がある、〔2〕双方の話し合いで決める、〔3〕自社がイニシアチブを持っている、の3つに大別できる。では、中小企業が主要販売先に製品等を販売する際に、価格はどのように決められるのだろうか。みずほ総合研究所(株)が2006年11月に実施した「企業間取引慣行実態調査」3によると、「主要販売先と話し合い、双方が合意して決定する」中小企業が63.4%と最も多い。しかし、主要販売先が決定権を持っているケースが23.9%、逆に自社が持っているケースも10.3%見られる(第3-2-1図〔1〕)。
 販売価格を話し合いで決定している中小企業の中にも、有利に価格設定を行っている企業が存在する。第3-2-1図〔2〕は、販売価格を主要販売先との話し合いで決定する中小企業について、販売価格の変更の経験について示したものである。これを見ると、「主要販売先への値上げ要請により、価格が見直された経験がある」中小企業は79.6%、「主要販売先からの値下げ要請を断った経験がある」中小企業は72.9%である4

 

第3-2-1図 販売価格の決定方法
〜価格決定権を自社が持っているケースが約10%、主要販売先が持っているケースが約25%〜

 

 中小企業が販売先に対して価格交渉力を持っているか否かは、業績に大きな影響を与えている。第3-2-2図によると、価格交渉力・価格決定権がある中小企業の方が、利益率が高くなっており、価格交渉力の強さは中小企業の業況を左右する大きな要素となっていることがうかがえる5
 

第3-2-2図 販売価格の決定方法と利益率との関係
〜価格決定権を持っている中小企業ほど、利益率が上昇傾向にある〜


2 技術力・技能が販売価格に反映されない要因

 中小企業の価格決定には、販売先との力関係だけでなく、同業他社との関係や業界慣行など、様々な要素が影響を与えており、技術力・技能が販売価格に十分に反映されていないケースも多い。第3-2-3図を見ると、技術力・技能が販売価格へ「十分に反映されている」中小企業は17.7%しかおらず、逆に「あまり反映されていない」中小企業が24.9%、「全く反映されていない」中小企業が4.7%存在している。

 

第3-2-3図 技術力・技能の販売価格への反映状況
〜「十分反映されている」と回答した中小企業は17.7%しかいない〜


 販売価格に技術力・技能が反映されていない背景には何があるのだろうか。第3-2-4図を見ると、「価格競争の激化」が78.4%と非常に多くなっている。ただし、「販売先企業の購買担当者の理解の乏しさ」、「過去に交わした価格契約による制約」、「販売先企業の予想による一方的な契約価格の要求」などの販売先企業との関係に起因するものや、「品質の異なる海外製品価格を基準とした値決め(品質のダブルスタンダード)」、「重さを基準とした値決め(重量取引慣行)」、「業界の慣行・慣例による制約」といった業界内の慣行を原因とするものも1割以上の回答がある。

 

第3-2-4図 技術力・技能の販売価格への反映を妨げているもの(全体)
〜価格競争の激化が最も多いが、それ以外に様々な要因がある〜


 では、これらの要因は、どのような位置にいる中小企業に対して、より大きな影響を与えているのだろうか。製造技術別、製品分野別、企業規模別にそれぞれ見ていこう。

(1)製造技術別
 第3-2-5図は、技術力・技能の販売価格への反映を妨げているものを、中小企業が主力とする製造技術別に表したものである。これを見ると、すべての製造技術分野において「価格競争の激化」が最も多くなっているが、2位以降の項目にはばらつきが見られる。

 

第3-2-5図 技術力・技能の販売価格への反映を妨げているもの(製造技術別)


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 特に目立つのが、「鋳造、ダイカスト」6業界と「熱処理」7業界で「重さを基準とした値決め」の回答割合が非常に高くなっていることである。これらの業界では、昔から重量取引が行われていたが、以前は単純形状の製品が多く、製品の重さで価格を決定することにある程度合理性があった。しかし、近年では、形状の複雑化や軽量化が進んでおり、重量を基準として価格を決定すると、技術力・技能が販売価格に適正に反映されないケースが増えてきている。また、ダイカスト業界では、「ショット工賃」と呼ばれる慣行も存在している。「ショット工賃」とは、機械の圧力(型締め力)に応じて、一回の射出あたりの価格を基準に製品価格を決定するものである8。この方法では、機械の複雑さとは関係なく価格が決定されるため、やはり技術力が価格に反映されにくい。
 「金型製作」業界での「品質の異なる海外製品価格を基準とした値決め」も高い割合となっている。東アジアに海外展開を行った企業が日本国内の取引先から調達している部品の製造技術は、熟練した技術や精巧さが要求される「金型製作」が最も多い9。この事実から、我が国の金型の技術水準の高さが推し量れるが、同時に品質の劣る現地企業の金型を基準として価格を決められてしまうというリスクも存在していると言える。


(2)製品分野別
 次に、技術力・技能の販売価格への反映を妨げているものを、製品分野別に確認する。第3-2-6図によると、やはり「価格競争の激化」がすべての製品分野で1位である。2位も多くの製品分野で「販売先企業の購買担当者の理解の乏しさ」となっており、製造技術別に見た時よりも比較的ばらつきは少ない。

 

第3-2-6図 技術力・技能の販売価格への反映を妨げているもの(製品分野別)


 特徴的なのは、家電業界やIT機器業界において「価格競争の激化」の割合が他と比べて高くなっていることである。国内での価格競争は、どの製品分野でも激化しているが、中小企業白書(2006年版)では、「家電産業に属するグループ」の方が「自動車産業に属するグループ」よりも東アジア製品との競合を感じているとしている10。家電業界やIT機器業界に属する企業群では、東アジア等海外製品との価格競争が一段と厳しくなっていることが、技術力・技能が価格に反映されない原因になっていると考えられる。
 また、自動車や航空機、船舶、鉄道車両といった製品分野では「過去に交わした価格契約による制約」が2位となっていることも注目すべき点である。これは、他の製品分野と比較して、製品のライフサイクルやモデルチェンジまでの期間が比較的長いためと考えられる。


(3)企業規模別
 最後に、技術力・技能の販売価格への反映を妨げている要因が、企業規模によって変わるかを見る。
 企業規模により変化が見られる項目は2つある。「価格競争の激化」は規模が大きい企業の方が、「販売先企業の購買担当者の理解の乏しさ」は規模が小さい企業の方が、それぞれ回答割合が高くなっている(第3-2-7図)。すなわち、技術力・技能の販売価格への反映を妨げている要因を、企業規模が大きくなるほど競合他社に、小さくなるほど販売先に求める傾向があると言える。

 

第3-2-7図 技術力・技能の販売価格への反映を妨げているもの(企業規模別)
〜技術力・技能が販売価格への反映を妨げている原因を、従業員規模が大きくなるほど競合他社に、小さくなるほど販売先に求める傾向がある。〜

事例3-2-1 不断の改善努力により価格面で中国製品にも負けない製品を製造

 徳島県徳島市の株式会社ヒラノファステック(従業員30名、資本金1,000万円)は、六角ボルトの専業メーカーであり、基本的に標準規格品に特化している。同社は、徹底的な生産工程の改善により不良品率を0.03%に抑えるなど、驚異的なコスト低減を実現することで、中国製品と価格面でほぼ互角の製品を製造している。
 同社では、生産工程の改善について次のような取組を行っている。
〔1〕現場従業員による改善提案活動:工程改善について、毎月100件程度現場から出される提案を、いつ、誰が実行するかも決めた上で必ず実行する。これによって、改善活動の実効力を高め、生産効率の改善に結び付けている。
〔2〕「リアルタイム生産管理シ� ��テム」:稼働率と生産個数の情報が、30秒ごとに更新される情報管理システム。製造ラインのスタッフは、同システムの情報画面を見ながら作業を行うことができるため、自己管理を行う中で稼働率の向上を目指すことができる。近年、短納期への要求が厳しくなっているが、同システムの導入により、短納期への対応を円滑に行える。また、これまでは、作業成果を日報に記載する形で、人事評価や様々な事務手続きに反映していたが、同システムの導入により記入負担が軽減され、この点においても生産効率が改善している。
 「リアルタイム生産管理システム」は、県の工業技術センターと共同研究して開発した。同センターとは、自動箱詰めロボットの開発においても共同研究しており、特許を取得している。また最近、四国� ��済産業局の補助金を受けながら、工業技術センターと共同で「標準の右ナットと左ナットが同時に使用できるネジ」を開発し、特許を申請している。このように、同社は将来を見据え新製品の開発にも注力している。


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リアルタイム生産管理システムの管理画面


3 中小企業が価格交渉力・価格決定権を持つための条件

 中小モノ作り企業の製品価格は、様々な理由でコストや技術力・技能に見合った価格設定がなされていないケースが多いことが確認された。それでは、中小企業が価格交渉力・価格決定権を得るための処方箋は何であろうか。その候補について一つずつ検証してみる。

(1)製品の差別化度合い
 まず、製品の差別化度合いとの関係から見てみる。第3-2-8図から、製品の差別化度合いごとに販売価格の決定方法を見ると、自社の製品が差別化されている中小企業の方が、自社が価格を決定している割合が高く、主要販売先が価格を決定している割合が低くなっている。この結果から、製品が差別化されているほど、価格交渉力を強めることができると言える。

 

第3-2-8図 販売価格の決定方法(製品の差別化度合い別)
〜差別化されている製品を製造している中小企業の方が、価格決定権を持っている割合が高い〜


 では、製品の差別化とは具体的にはどのようなことなのであろうか。差別化をするために必要な製品の特性について分析を行ったところ、自社製品の「品質の独創性」と「ブランド力」11の高い中小企業は製品の差別化がされている、という結果が得られた(第3-2-9図〔1〕〔2〕)。すなわち、価格交渉力を高めるための製品の差別化には、〔1〕競合他社が真似できない(または競合他社が思いつかない)独創性に富んだ技術・製品を開発していくという「製品自体の差別化」、〔2〕自社製品の特長を積極的にアピールすることで、顧客の自社製品に対する認知度やイメージを向上させるという「製品イメージの差別化」という、2種類の意味合いが含まれていると言えよう。
 

第3-2-9図 製品特性(独創性・ブランド力)と製品の差別化度合い
〜自社製品の独創性やブランド力を高めることで、他社製品との差別化が実現される〜


(2)販売先の多様化度合い
 次に、販売先の多様化度合いと販売価格の決定方法との関係を確認する。販売先が多様化することにより、依存度が低下した主要販売先に対して強気の価格交渉ができるようになるという可能性と、主要販売先との関係が薄れることで価格決定に自社の事情等が考慮されなくなるという可能性が考えられる。どちらの影響がより大きいのだろうか。ここでは、〔1〕主要販売先への依存度、〔2〕販売先数との関連性をそれぞれ見る。第3-2-10図〔1〕〔2〕によると、主要販売先への依存度については依存度が低い中小企業の方が、販売先数については数が多い中小企業の方が、価格交渉力が強くなっている。つまり、多様な販売先を持っている中小企業ほど、価格交渉力が強くなるという傾向が見られる。この傾向は、業績や製品の差別化度 合いをコントロールしても確認できる12
 

第3-2-10図 販売価格の決定方法(販売先の多様化度合い別)
〜多様な販売先を持っている中小企業の方が、価格決定権を持っている割合が高い〜


 販売先を多様化するために必要な製品の特性についても考えてみたい。多数の取引先に販売するためには、「汎用性」の高い製品を取り扱う必要がある。「汎用性」とは、「一つのものを広くいろいろな方面に用いること」という意味で捉えられている13。自社製品の「汎用性」の高さと販売先の多様化度合いについて示した表が第3-2-11図であるが、これによると、自社製品の「汎用性」が高い中小企業ほど、主要販売先への依存度が低くなっている。販売先数についても、自社製品の「汎用性」が高い中小企業の販売先数の方が多いことが認められる。価格交渉力の強化という観点からは、営業活動の強化等により販売先を多様化していくこと、多様な販売先を得られるような技術・製品を開発していくことも一つの方向性であろう。
 

第3-2-11図 製品特性(汎用性)と販売先の多様化度合い
〜自社製品の汎用性が高い中小企業は、多様な販売先を持つことができる〜


(3)従業員規模
 従業員規模との関係はどうであろうか。第3-2-12図は、販売価格の決定方法を従業員規模別に示したものである。これを見ると、「主要販売先が一方的に決定する」、「主要販売先と話し合うが、最終的には主要販売先が決定する」の合計は、どの従業員規模でも25%程度であり、規模による差はほとんど見られない。このことから、従業員規模が小さいことが理由で、価格決定権を主要販売先に握られているわけではないと言えそうである。従業員数が20名以下の小規模企業でも、それ以外の規模の中小企業であっても、中小企業の主要販売先は自社よりも規模が大きいケースがほとんどである14ため、従業員規模は価格決定にそれほど大きな影響を与えていない可能性がある15
 

第3-2-12図 販売価格の決定方法(従業員規模別)
〜従業員規模が小さいことが原因で、価格決定権を主要販売先に握られているということではない〜


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(4)主要販売先との取引年数
 最後に、主要販売先との取引年数別に販売価格の決定方法を確認してみる。第3-2-13図によると、従業員規模の場合と同様に、販売価格の決定方法との関連性は見られない。長期の取引関係を築いているだけでは、価格の交渉力が増すという事実はないようである。逆に、長い付き合いをしていくうちに、主要販売先に一方的に価格を決められてしまうようになるという可能性も低いと言えよう。

 

第3-2-13図 販売価格の決定方法(主要販売先との取引年数別)
〜取引年数と価格決定方法との間に関連性は見られない〜


 以上、価格交渉力を得るために必要な条件について考察を行ってきた。その結果、〔1〕製品を差別化することや販売先を多様化することで、中小企業も価格交渉力を高められること、〔2〕販売価格の決定方法は、従業員規模や取引年数とはあまり関係がないこと、の2点が判明した16。すなわち、中小企業が価格交渉力を得るために必要なことは、製品の工夫と販売方法の工夫であり、中小製造業が価格競争で生き残っていくために、「製造」と「販売」というごく日常的な業務における革新が求められているのである。
事例3-2-2 他社では難しい加工分野で価格交渉力を保持

 山梨県大月市の山陽精工株式会社(従業員100名、資本金2,500万円)は、光学部品の精密部品加工業として、1963年に創業した企業である。同社は、下請を行う部門においても、他社ではできない加工を引き受けることで、価格競争力を持っている。
 現在の同社の事業は、技術事業本部(売上の7割)と開発事業本部(同3割)の2本柱から成る。開発事業本部は、自社製品の開発・製造・販売を行っている部門である。同社の主力商品は「SMT−Scope」という高温観察装置である。これは、鉛フリーはんだのぬれ性の評価・解析や、温度変化に対する試料の状態変化の連続観察を行う機械であり、同社が初めて開発に成功した商品である。販売先は、デバイスメーカー、基盤セットメ� ��カー、公的試験機関、民間研究機関などであり、3年前からは韓国や台湾にも販売代理店を持ち販路拡大に努めている。この部分については、オリジナル商品を作っているために、自社で価格決定ができる。
 技術事業本部は、大手光学製品メーカーの部品の精密切削加工・装置組立を行う下請部門である。同社の得意としている技術は多種少量生産であり、創業当初から他社ではできない(または嫌がる)ような加工を引き受けることで、非常に高精度の加工技術を蓄積しており、取引先からの信頼も厚い。この部門における価格決定については、以下の3通りに大別される。
〔1〕一般の製造品:見積合わせが多い。競争入札の形式をとる。価格競争が激しく、利幅が薄い。
〔2〕商品価格が決定しているもの:販売先からの指� ��が多い。既に販売先の商品売値が決定しているものについては、指値でやって欲しいとの要請がくる。例えば、販売先が他社に依頼していた仕事で、同社が引き受けることになったもの(他社が倒産した、他社に納期、品質、技術で問題があるといった理由によるものが多い)であり、これも利益率は低い。
〔3〕特に高精度を要する高技術品や短納期品:同社で見積を出す。他社ではできないような高度な技術を要するものや、短納期の依頼については、同社から価格交渉が可能であり、同社が提示した価格が受け入れられることが多い。これは高付加価値が付けられる。また、同社では前例のない精密加工を頼まれることが多いが、その場合は比較する価格がないため、その都度見積を出せることが強みである。
 同社では、品 質や技術力の向上に対する努力を継続することはもちろんのこと、〔1〕短納期への対応、〔2〕品質保証(品質管理体制が十分である、品質保証に係る具体的な数値データが出せるなど)、〔3〕環境に関する情報提供、〔4〕技術提案(設計の改善提案など)といった、付加的なサービスを含めた総合力を高めることで、顧客の新規獲得・維持を行うとともに、価格交渉力を維持している。

 

高温観察装置


事例3-2-3 高い技術力で大企業とも対等な取引を行う企業

 東京都武蔵村山市の株式会社ウイング(従業員10名、資本金1,000万円)は、精密機器の試作開発及び設計製作において高いスキルを持つ企業である。現在の主力製品は、超高精度スライド機構、半導体関連装置及び液晶関連装置、測定機である。同社では、高い技術力をいかし、大手企業も含めて対等な取引を築き、原則として値下げに応じていない。
 2005年3月期の売上高は5億400万円と、2年前の4倍以上と右肩上がりに伸びており、大手半導体メーカーや家電メーカーなどからの受注が増加している。同社は、大手企業でも導入しているケースの少ない最先端の設備をいち早く導入するなど、研究開発投資にも積極的である。また、研究開発投資を自己資金で実施し、研究開 発の自由度を確保している。
 技術力を示す特徴的な製品の1つが、リニアシャフトモータを搭載することでサブミクロンの位置決め精度を実現した測定器、「超高精度薄型X−Yステージ」である。駆動装置に従来のボールネジの代わりにリニアシャフトを使用することで、テーブルの高さを抑え、振幅による揺れを最小限に抑えることに成功している。また、リニアシャフトは非接触型であるため、磨耗による精度の劣化も小さい。半導体メーカーなどからの同製品への注目度は高い。
 同社は、こうした高い技術力を背景に、企業規模にかかわらず対等な取引関係を築いている。取引先が大手企業であっても、基本的に取引先の経営幹部と面会し交渉するようにしており、原則として値下げ要求に応じない。一方で、原材料価格が 高騰した場合など、値上げが必要な局面では、取引先企業と契約内容について再度話し合う。販売価格への上乗せができなければ、機構を変えたりスペックを落としたりすることを検討する。また、同社の生命線である技術ノウハウを守るために、秘密保持契約は必ず締結し、秘密保持契約の締結を拒む企業とは取引をしない。

 

超高精度薄型X-Yステージ

事例3-2-4 開発から量産化までのトータルサポートにより、付加価値を高める

 大阪府東大阪市の株式会社ヤマナカゴーキン(従業員250名、資本金8,000万円)は、1961年に創業した金型メーカーであり、主に自動車業界を中心に幅広く取引を行っている。同社では、顧客の開発から量産化までを幅広くサポートすることで、付加価値を高めている。
 同社の得意とする分野は精密冷間鍛造金型であり、国内シェア25%を誇っている。精密冷間鍛造金型は、金属材料を常温で必要な形状・精度に成形でき、熱エネルギーや切削による材料ロスの節減だけでなく、材質そのものの高強度をもたらす優れた金型である。このため、軽量化、コスト削減、機能性に優れ、環境・省資源にも貢献する技術として脚光を浴びている。
 同社のよう� �非常に優れた技術力を有している企業でも、価格交渉には苦慮するケースがあるという。例えば、金型の寿命を長くし、1つの型でより多くの生産ができるように改良をしても、製品価格は改良前とあまり変わらない。一方で、他社との品質競争が激しく、優位性を出すために品質改良を続けていかねばならず、ジレンマに陥っている。
 このような中、同社では、他社との差別化を図り価格競争力を高めていくために、顧客からの依頼に対して、コンサルティングから設計・解析、金型制作、試打ち・量産化、品質保証までを一貫して行い、複雑化・多様化する塑性加工業界のエキスパートとして、トータル的にサービスを提供している。特に、同社の解析技術は、設計から製品化までのすべての工程をシミュレートすることで、スピ ーディーに不具合を予測し、コストを最小限に抑える開発を可能にしており、顧客からの評判も良く、収益に貢献している。

 

精密冷間鍛造用金型

コラム3-2-1 情報技術を活用した新規取引先の開拓

 情報技術(IT)が急速に発展する中で、中小企業においても、積極的にITが導入されるようになっている。その1つとして、新規取引先の開拓を目的とした、自社ホームページによるPRが挙げられる。
 コラム3-2-1-1図によると、自社ホームページを導入している中小企業の割合は、2000年から2005年までの5年間でほぼ2倍となっている。さらに、導入済企業のうち過半数が、「大きな効果あり」、「効果あり」と回答している(コラム3-2-1-2図)。以下に、自社ホームページにより成果をあげた事例を紹介する。


(1)製造業の昭和電機株式会社(大阪府大東市、従業員数163名)は、顧客からの質問や技術情報などをデータベース化して、社内用、流通業者用、顧客用に開示した。特に顧客用ホームページでは、専門情報の開示、気軽に質問できる仕組みづくりなど、問い合わせから営業展開につなげる工夫で新規開拓に取り組み、成果を上げている(新規顧客の見積依頼:48.6件/月)。
(2)有限会社ウエダ食品(大阪府守口市、従業員数6名)は、こんにゃく関連商品の卸売業である。同社は、消費者視点に基づく自社ホームページのリニューアルで成果をあげた。リニューアル前のホームページは外注委託して制作したものであったが、見た目は綺麗に出来ていたものの、商品の魅力が伝わりにくかった。そこで、商品知識のある社長の妻が、� ��んにゃくを使った料理のレシピなどを、消費者にわかりやすく伝える内容にリニューアルした。その結果、ネット販売開始から3年で月商が拡大した。

 

コラム3-2-1-1 自社ホームページ導入状況
〜自社ホームページを導入している中小企業の割合は、2000年から2005年までの5年間でほぼ2倍〜


 このように、ホームページにより情報を開示することで、自社や自社製品について広くアピールできるというメリットがある。また、グローバルな活動を行うための重要な経営基盤としても期待されている。
 一方、特定の取引先とやりとりをする中で、品質や価格などを決定していく受注生産の製造業などでは、情報の開示が必ずしも新規取引先の拡大に結びつくとは限らない。情報開示を行う上では、「誰に向けてどのような情報を発信するのか」を意識することが重要である。

 

コラム3-2-1-2 自社ホームページ導入済企業の評価
〜約6割の中小企業が効果ありと回答〜


 第2章 企業間の取引条件が中小企業に及ぼす影響



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